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第6話 ◇妻とは名ばかり

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-04-02 15:33:44

6.

 この25年余り、私に心の平安などありはしなかった。

 子供を連れて苦労して生活していく勇気のなかった女。

 ならぬものは、ならぬのですと夫に糾弾出来なかった

意気地なしの女。

 私だけを見てほしいと頼んでも聞き入れて貰えないと

悟った時から、浮気相手の数と浮気相手に会う回数を

数えるのを止めた女。

 よそでたくさんの女たちをとっ替えひっ替えしては

欲望に忠実で快楽を求め続けた男は、妻である私のことも

やさしく時には抱いた。

 夫の女性関係で苦しみ醒めてしまった私は、夫と何度

身体を重ねても喜びを感じることは出来なかった。

夫の私の身体をあちこち弄《まさぐ》るこの指は

昨日は誰の身体に触れただろうか。

私を快感に導く彼のモノは、昨日は誰を導き快楽の泉に

沈めたのだろうか。

私はいつも不快感と不安の中で夫に身をゆだねてきた。

子供と一緒に路頭に迷うわけにはいかない。

 夫の周りには常に若くてスマートで魅力的で目一杯

彼の気を引くことの出来る女たち《女ども》がいる。

 浮気が高じて私がいつの日か夫から打ち捨てられる日が

こないとも限らない。

 私は家事も手抜きせず常にきれいで居心地の良い部屋作りに努め、

お料理にも気を配り笑顔を忘れず、子育ても一生懸命こなした。

-

 もちろん、おしゃれにも気を遣い身なりもきれいにし

パーフェクトな妻を演じてきた。

 あまりの数の夫の女性関係に、最初は嫉妬や苦しみ悲しみに

捉われていた私。 『辛い……』

 けれどいつしかその気持ちは、大きな不安へと変化していった。

 いつの頃からか、私は夫に本心を見せることも甘えることも

なくしていった。

 婚姻を続けることしかできない私の心中は、無念の一言しかない。

 ……しかなかった。

 けれど己が選択した道なのだ。

 過去の自分もそして今の自分もずっとそれでもテクテクと

一歩ずつ歩んで行かねばならない。

 この道を不幸なものにはしたくないと強く思ってきたし

これからもこの思いは変わらない。

 夫は私に対してやさしく大切にしてきた、これからだって

私が大人しくさえしていればやさしさを与え、大切にもしていくと宣言

した。

 愛だって与えているじゃぁないかと言わんばかりに。

 10切れある愛の1切れ2切れを私に与えているに過ぎな
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